理事長挨拶

2015年12月11日
一般社団法人日本癌治療学会
理事長 北川 雄光

 1980年代前半私がまだ医学部学生であった頃,癌遺伝子,次いで癌抑制遺伝子の存在が明らかとなり,「21世紀には癌は制圧されているだろう」と予測する研究者もいました。およそ30年が経過しましたが,癌遺伝子,癌抑制遺伝子の発見が,がん征圧に直結するほど「がん」は単純ではありませんでした。一方,当時すでに提唱され始めていた「個別化がん医療」という概念は,「Precision medicine」へと進化しています。ミサイル療法などと称された実験レベルの研究は,分子標的治療として急速に進歩,普及を遂げ,免疫療法も新しい展開を迎えています。現在,生物学的悪性度や治療反応性と関連する膨大なゲノム情報をどのように整理して展開するかが大きな課題となり,がん治療は臓器・領域別でなく,遺伝子・分子プロファイルによって分類されるボーダレス時代を迎えようとしております。

 日本癌治療学会は,会員数17,000を超える本邦最大の領域・職種横断的がん関連学術団体であり,まさに時代のニーズに即した横断的な診療,研究,人材育成のプラットフォームとして社会からの期待が寄せられています。本学会は,常に領域・職種横断的視点から,学術研究,教育活動を行って参りました。今後も,単独領域の専門学会では取り組みが困難な課題に積極的に取り組んで参ります。

 その一環として現在,領域別に策定されている癌取扱い規約の整合性を持った標準化やNational Clinical Databaseを活用したがん登録の推進は,横断的,俯瞰的学会である本学会がお役に立てる重要な課題であると考えております。

 適正な臨床研究を遂行し,国民の福祉に資するために医師・研究者のみならず,これに関わる関連職種を育成するために認定治験コーディネーター制度を発足し,推進して参りました。高度に進歩する一方で,複雑化したがん診療に関わる情報をより客観的に整理し,国民の皆様に伝えるためのがん診療ガイドラインの公開,評価,策定に関わる事業,そして地域の中でがん診療に関わる情報を個々の受療者に届けるための認定がん医療ネットワークナビゲーター養成事業などに一層力を注いで参りたいと存じます。

 皆様がすでによくご存知のように,21世紀を迎えて十数年が経過した今日でも,未だがんの制圧は達成さておらず,国民の二人に一人ががんに罹患する時代を迎えています。一方では,がん罹患者の70%が何らかの治療によって治癒する時代となりました。がん治癒の先にある長い人生を支えるため,医師のみならず,すべての医療従事者,受療者自身が協調したサバイバーシップにとり組まなければなりません。こうした観点からPatient advocacy leadershipや,小児・若年がん患者がかかえる様々な課題へのアプローチも本学会が取り組むべき重要なテーマと考えております。今後,より一層注目されるがん予防において,「小学生からのがん予防教育」は,長期的に極めて重要なテーマであり,UICC日本委員会の皆様とともにこの課題に引き続き取り組んで参ります。

 近年,がん医療・研究のグローバル化が急速に進み,西山前理事長はAmerican Society of Clinical Oncology (ASCO), European Society for Medical Oncology (ESMO)など世界をリードする学術団体との連携を強化するのみならず,中国,韓国とともにFederation of Asian Clinical Oncology (FACO)を設立し,アジアを中心とした臨床研究推進の基盤形成に着手されました。この活動はようやくスタートラインに立ったところでありますが,アジアにおける重要課題に的を絞り,国際連携に基づく臨床研究を着実に展開して参ります。

 歴代の理事長,役員,会員の皆様のご尽力によって築かれてきた本学会の伝統と実績は,社会から高い評価を受け,さらなる期待が寄せられています。

 その期待にお応えするためにも,財務基盤,組織体制を一層強化し,地に足の着いた活動を展開して参ります。会員の皆様,本学会をご支援くださっておりますすべての皆様におかれましては引き続きご指導,ご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。