新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について (患者さん向け)Q&A 第3版

日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)
新型コロナウイルス感染症とがん診療について(患者さん向け)Q&A
-改訂 第3版-

2021年1月15日 更新

はじめに

このQ&Aは、がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)合同連携委員会の、新型コロナウイルス(COVID-19)対策ワーキンググループ(WG)が最新の情報などを参考に作成したものです。
患者さんやご家族皆さんには不安を抱えご自身の判断で検査や治療を控えている方がおられるかも知れません。
大切なことは主治医の先生とよく相談されることです。このQ&Aが悩みや疑問の軽減、今後の病気へのとりくみへの参考にしていただけると幸いです。
今後も、新たな知見、情報をもとに適宜更新されます。

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患者さん向けQ&A改訂履歴

1.疫学的なこと(がん患者さんのリスクなど)

1)がん患者は新型コロナウイルスに感染しやすいですか?

がん患者においては、がんそのものにより免疫状態が低下している可能性があります。またがん治療には、化学療法をはじめとして免疫状態が下がる治療方法が用いられます。新型コロナウイルスはウイルス感染症であり、免疫力が低下した状態で感染する可能性が高いと想定されます。


2)がん患者が新型コロナウイルス感染の予防に関して気をつけた方が良いことはありますか?

新型コロナウイルスは非常に感染性が高いことが分かっています。がん患者ではない方と同様、外出を控え、密集・密閉・密接のいわゆる三密を避けることが重要です。また手洗い、咳エチケットなども基本的な予防行動を取ることが勧められます1)。具体的な行動に関しては厚生労働省「新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例2)」を参考にして下さい。
さらにがん患者に特有な新型コロナウイルス感染予防として、不急な病院受診を控えることも考慮されます。あるいは昨今国内でも導入された電話・オンライン診療3)を利用するなどの対策を取ることで、リスクを下げることが可能です。受診される際には、公共交通機関ではなく自家用車を利用することで、他の人と接触する機会を少なくすることができます。

1)厚生労働省「新型コロナウイルス感染予防のために」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kenkou-iryousoudan.html

2)厚生労働省「新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000641743.pdf

3)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえたオンライン診療について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html

2.免疫とウイルス感染との関わり

1)がん患者では免疫が落ちていますか?

全てのがん患者で免疫が落ちるわけではありません。
化学療法などにより免疫細胞の数や機能が低下している方では、免疫の機能が低下しており感染が増悪しやすい状態になっています。特に、過去14日以内に抗がん治療(化学療法、免疫療法、放射線療法を含む)を受けた28人の患者を調べた結果では一般人と比べ4倍以上の重症化の危険性があったと報告されています。ただ、この点については、危険性が変わらないという報告もあり本当に抗がん治療によって重症化につながるのかどうかは現段階では結論が出ていません。また一般に、高齢者、免疫の低下している患者や、肺に障害を受けている患者、喫煙者、糖尿病などの基礎疾患を持つ患者などでは重症化の危険性が高いことが報告されています。免疫力はいろいろな要因で変化します。詳細な機構は不明ですが、栄養不良、睡眠不足、疲労、ストレスなどによっても変化すると言われています。免疫細胞の数や機能が低下している方では、これらの点にも留意する必要があります。

[解説]
ウイルスに対する免疫には全ての細胞で働く自然免疫といわゆる免疫細胞による獲得免疫の2種類があります。自然免疫はウイルス感染を受けた細胞においてインターフェロン産生などにより細胞内でのウイルスの増殖を抑えます。また、感染を受けた細胞から分泌されたインターフェロンなどにより免疫細胞が活性化します。活性化した免疫細胞はウイルスを攻撃する抗体を産生し、感染を受けた細胞を攻撃し排除します。通常、抗体が十分にできると体内でのウイルス感染拡大は収まり治癒に向かいます。感染から十分なIgG抗体ができる期間には個人差がありますが1~2週間と考えられています。


2)重症化に免疫は関与していますか?

ウイルス感染を受けた細胞から分泌されたインターフェロンなどにより免疫細胞が活性化します。活性化した免疫細胞はウイルスを攻撃する抗体を産生し、ウイルスや感染を受けた細胞を攻撃し排除しようとします。免疫細胞の活性化には様々なサイトカインと呼ばれる物質が分泌されますが、その量が過剰になるサイトカインストーム(サイトカインの嵐)と呼ばれる状態になると、活性化した免疫細胞が正常な細胞にもダメージを与えるようになり新型コロナウイルスの重症化に関与しているとの説が有力です。なぜサイトカインストームが起きるかはよく分かっていませんが、主要な炎症性サイトカインであるIL-6の血中濃度が高い人では肺炎が重症化しやすいと報告されています。また、サイトカインストームと共に全身の血管で血栓形成しやすくなることが重症化に関与していることが分かって来ています。

[解説]
過剰な免疫反応を抑えるため重症者に対してはステロイド(デキサメサゾン)が有効であることが示されています。また、IL-6の働きを弱めれば肺炎の重症化を防げるのではないかとの考えに基づき、治験が行われています。関節リウマチ治療薬トシリズマブ(商品名アクテムラ)はIL-6受容体に結合しIL-6が働かなくする抗体薬です。中国や日本では、トシリズマブの有効性を示唆する症例や治験の結果が報告されており、中国では2020年3月から新型コロナウイルス患者への投与が認可されています。一方、2020年12月には、アメリカで中等症のCOVID-19入院患者243名を対象としたランダム化比較試験の報告が発表され、重症化予防効果を示す事はできなかったと結論されています。トシリズマブの有効性については現在進行中の複数の治験の結果も考慮して判断すべきと考えられています。


3)一度免疫ができたら二度と感染しませんか?

ウイルス感染後に抗体ができると同じウイルスに対する記憶をもつ免疫細胞が残り、2回目以降の感染や重症化を防ぎます。2回目の感染を防げる期間はウイルスごとに異なり、麻疹(はしか)
ウイルスのように感染するとほぼ生涯続く(終生免疫と呼びます)ものから数か月しか続かないものまであります。今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)についてはアメリカで3万人を超える患者血清を経時的に調べた結果、多くの場合少なくとも5ヶ月間は中和抗体価を維持していることがScience誌に報告されています。一方で新型コロナウイルスの再感染の報告も増えてきており、他のコロナウイルスと同様生涯免疫は得られないことが示唆されています。また、免疫ができたかどうかを知る指標として抗体検査が行われますが、抗体が陽性でも感染する可能性やまだ感染中である可能性もあり抗体検査の解釈には注意が必要です。

[解説]
PCR検査や抗原検査は薬事承認され確定診断に用いる事が可能です。一方、抗体検査キットは複数販売されていますが薬事承認されたものはなく診断に用いる事はできません。WHOも診断を目的として単独で用いることは推奨しておらず、主に疫学調査等で活用されています。厚生労働省の下記HP上で「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」、概説されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00132.html

3.主治医に相談すること

1)新型コロナウイルスに関して、かかりつけの医師にはどんなとき、どんな内容を相談したらいいですか?

がんの治療や受診に関して不安に思うことがあれば、率直に主治医に質問しましょう。また、今後の治療方針や選択肢、予定についても主治医に相談しましょう。今後の予定については、がんの状態や患者さんの状況、お住まいの地域の感染流行状況によっても異なります。ご自身がどうしたいかなどの希望があればお伝えし、受診の間隔や処方日数など、その時点の個別状況に合わせた意見を求めるなど、主治医と相談してください。

4.検査新型コロナウイルス流行期におけるがん関連の検査について

下記に一般的な指針を示しますが、患者さんの状態、住まれている地域の流行状況、医療体制によって異なります。

1)主治医からがんが疑われる状態といわれています。検査は受けるべきでしょうか?

がんの可能性がある患者さんは通常、血液検査、画像検査、内視鏡検査など多くの検査を必要とします。これらの検査の中には、検査を受ける方、検査をする方の接触が濃厚であるものもあります。がんが強く疑われる場合は、予定通り検査を受ける必要がありますが、がんの可能性が低い場合は検査をある程度延期ができる場合もあります。主治医と良く相談してください。


2)内視鏡検査が予定されています。どうしたらいいですか?

多くの施設において、内視鏡検査における感染リスクを最小限にするべく努力がなされており、新型コロナウイルス感染症が収束していない状況でも通常の内視鏡診療が行える様に体制を整えています。一方で、新型コロナウイルス感染症の緊急事宣言下では必要最小限にすべきと考えられています。ご自身の検査の必要性を検討いただき、予定通り受けるべきか確認してください。


3)がん治療後の経過観察のための検査がありますが、受けるべきですか?

流行期には延期できる通院は、延期を検討すべきです。治療後の患者さんで、定期的なチェックを受けられている場合でも、ある程度延期するといった対応が取れる場合もあります。担当の先生とよくご相談ください。


4)がん検診は受けても大丈夫ですか?

がん検診や健診・人間ドックも感染拡大のリスクとなる懸念があります。一方で過度な受診控えは早期発見の機会を失いかねません。多くの医療機関で、受診者とスタッフの双方の感染防止を配慮して検診を行っています。まず、ご自身が受診できる医療機関にがん検診や健診の受診が可能かをお問い合わせください。

がん患者さんの新型コロナウイルス検査について

1)がん患者は新型コロナウイルスの検査で、陽性が出にくいですか?

新型コロナウイルス感染症の検査で一般的に行われている検査はPCR検査と抗原検査です。PCR検査はウイルス特有のRNA、抗原検査はウイルス特有の蛋白の有無を調べます。鼻咽頭のぬぐい液や唾液、喀痰を採取し、その中にRNAや蛋白が存在するかを検査します。検査の仕組みから考えて、がん患者さんであることが検査結果に影響を及ぼすことは考えにくいです。一方で、これらの検査結果が陰性であったとしても、新型コロナウイルス感染症ではない、とは言い切れないことが知られています。特に、新型コロナウイルス感染症の症状が持続する場合は注意が必要です。
この他、現在、新型コロナウイルスの抗体検査が検討されています。これは、新型コロナウイルスに対する体の免疫反応を検出するものですが、がん患者さんは病気そのものや抗がん剤などの治療が抗体検査の結果に影響を及ぼす場合があるため、主治医と良くご相談ください。


2)がん患者は優先的にPCR検査を受けられますか?

PCR検査数は増加傾向にありますが、検査体制はそれぞれの地域や医療体制によって異なります。新型コロナウイルスの感染が心配な場合、発熱などの症状がある場合は、まず、かかりつけ医に電話で相談しましょう。相談する医療機関に迷う場合には、各自治体の受診・相談センターにお問い合わせ下さい。

5.治療治療全般のこと

1)現在、がんの治療を受けています。延期した方がよいのでしょうか?

お住まいの地域の感染状況などにより、がん治療を延期した方がよい場合には、主治医から提案や説明があるでしょう。不安に思って自分で判断することなく、主治医とよく相談してみることがなによりも大切です。通院や自宅療養の際には、マスクを着用する、手指衛生を小まめに行う、換気する、家族以外との会食を控えるなどをこれまで通り行いましょう。また、感染を疑う体調の変化がみられる場合、濃厚接触者となった場合には、必ず受診する前に主治医へ連絡してください。


2)病院に行かずに近くの薬局で薬を受け取ることができますか?

新型コロナウイルス感染症の流行に際して、電話やインターネットなどを通じて診察を受け、病院に行かずに近くの薬局で薬を受け取ることが、時限的、特例的に行われています。希望する場合には、通院している病院に電話で問い合わせてみましょう。
また、薬剤師から電話などで薬の説明を受けて、郵送などの方法で薬を受け取ることができる場合もあります。
いずれも、定期的に受診している、受診しなくて良い状態であるかを主治医が判断しているなどの要件を満たすことが必要です。病院や病状によっても対応が異なりますので、主治医にご相談ください。

◆「厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえたオンライン診療について」
オンライン診療をしている医療機関のリスト・連絡先が掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html


3)新型コロナウイルス感染症が疑われる症状がある場合、がんの治療をやめた方がいいでしょうか。

もしご自身に新型コロナウイルス感染症を疑う症状がある場合には、ご自分で判断せず、事前に、主治医やかかりつけの医療機関に連絡して、ご相談ください。主治医に、具体的な症状と症状が出た時期などの詳細を伝えてください。がんの治療内容や病状と勘案して、その後の対処方法について指示を受けましょう。また、ご自分が濃厚接触者となった場合も、主治医にご相談ください。


4)治療が変更されて(予定より遅れて)、必要な治療を受けられているか、がんが進行しないか心配です。

新型コロナウイルス感染症の影響で、がんの診療の予約や治療予定が変更される場合があります。また定期的に受けていた検査が受けられないことで、がんや治療の状況が心配になる方もいるかもしれません。
かかりつけの医療機関では、感染拡大防止対策を徹底し、主治医はがんの進行状況や治療効果、地域の流行状況などから総合的に判断して治療方針を提示しています。心配なことや質問があれば、その内容を書き留めておき、主治医に忘れずに質問してください。


5)がんの治療を受ける予定です。通院や入院をするのに、注意することはありますか?

すでに受診予定の医療機関がある場合には、医療機関のホームページや電話で、受診方法の留意点などについてご確認ください。また受診予約があり、新型コロナウイルス感染症と疑われる症状がある場合には、事前に必ず医療機関に連絡するようにしてください。
これから治療する病院を選ぶという場合は、通院の距離について、これまで以上に考慮する必要があります。感染拡大している地域に希望する病院がある場合、通院の際の移動に不安が生じる場合があるでしょう。放射線治療や薬物療法など、治療内容によっては毎週、あるいは毎日のように外来通院する場合もありますので、治療病院を選ぶ際にご考慮ください。
患者数や診療している医療機関が限られる希少がんなどの場合を除き、多くのがんでは標準治療(現時点で最も安全で、最も効果が高いと科学的に裏付けられた治療)が確立されています。がん診療連携拠点病院をはじめとする標準治療を実施している病院であれば、診療実績などの数にこだわり過ぎる必要はないと知っておくのもよいでしょう。どのように選んだらよいかわからないなど、がん相談支援センターで相談に応じています。必要に応じて活用してください。


6)オンラインでセカンドオピニオンを受けることはできますか?

ほとんどの病院でセカンドオピニオン外来は、通常通り再開しています。また、一部の病院や一部の診療科に限られますが、オンラインでのセカンドオピニオン外来を行っている場合もあります。その場合の必要な手続きや流れ、費用は各施設で異なりますので、各病院のホームページをご確認ください。

手術など外科的治療について

外科治療全般について

新型コロナウイルスに感染している患者さんについては、よほどの緊急でなければ、治療により感染が悪化して致死的になる危険性があるので治療を延期した方がよいと考えられます。感染のない人では、手術を予定通り行うことが基本です。がんの手術は標準治療であり、安易に延期したり、他の治療法を選択することは避けるべきです。実際、ほとんどのがんは数日から数か月以内に手術しないと致命的となりえる疾患と考えられています。基本的にはCOVID-19の流行拡大下でもほとんどのがんは十分な感染予防策を講じ、慎重に実施すべきと考えられています。新型コロナウイルス感染拡大によって外出や移動が厳しく制限されるロックダウン政策が行われたイギリスでは、ロックダウンによる診断の遅れが、がんの生存率に悪影響を与えることが懸念されています。実際、肝がん、肺がん、食道がん、口腔がん、胃がん、卵巣がんなどで年齢によっては10年生存率が15%以上低下する可能性が指摘されています。
しかしながら、市中感染の頻度が極めて高い地域では治療中に感染を起こす危険性があるので延期できるものはした方がよいでしょう。早期がんの場合は治療を延期しても大丈夫な場合が多いと考えられます。そのため早期がんの場合には、術後の新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクを考えると延期した方が良いと考えらえる場合が多いとされています。また、一部の手術など医療従事者への感染の危険性の高い治療は万が一あなたが感染していた場合、院内感染を広げる恐れがあるので、検査を精密に行ったり、手術に代わる代替治療や手術の延期等が考えられることもあります。
したがって、手術の予定の変更に際しては自己判断で手術を中止したり、延期したりすることはしないで、手術予定の病院の受け付けに電話をし、主治医または看護師等へ連絡、相談をしましょう。

1) Sud A, et al. Effect of delays in the 2-week-wait cancer referral pathway during the COVID-19 pandemic on cancer survival in the UK: a modelling study. Lancet Oncol . 2020 Aug;21(8):1035-1044. doi: 10.1016/S1470-2045(20)30392-2. Epub 2020 Jul 20.

1)手術後に新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいのでしょうか?

がんの手術後1か月以内に新型コロナウイルス感染症にかかった患者さんは重症化しやすいという報告があります。特に術後間もない患者さんは外出自粛や手洗いなどの感染対策の徹底をお願いいたします。


2)がんの手術を受ける予定でしたが、延期した方がよいでしょうか?

自己判断で手術を中止したり、延期したりすることはしないで、手術予定の病院の受け付けに電話をし、主治医または看護師等へ連絡、相談をしましょう。手術の延期の影響はがんの種類や病期(がんの進行度)によって異なります。がんの種類や病期によっては手術以外の治療をまず行うことも考えられます。また、地域によって新型コロナウイルスの感染の広がり方も異なりますので、受診されている病院の感染対応や対策の状況なども含めて、様々なことを考える必要があります。今の時期に手術をした方がよいのか、延期すべきか、何らかの手術以外の治療を行うのか、主治医の先生から十分お話しを聞いて、よく相談をしてください。


3)定期的な検査や診察の予定が入っています。延期してもよいのでしょうか?

がんの治療後の定期的な検査や診察は、自己判断で中止したり、延期したりすることはしないで、かかりつけの病院の受け付けに電話をし、主治医または看護師等へ相談をしましょう。

放射線治療について

1)現在、放射線治療を受けています。新型コロナウイルスに関して注意することはありますか?

放射線の局所照射で、感染に対する抵抗力(免疫力)が大きく低下するという科学的根拠はありません。放射線治療を受けた患者さんが新型コロナウイルス肺炎を起こすと重症化しやすいとの報告もありません。ただし、抗がん剤を併用した化学放射線療法では、免疫力が低下する可能性があります。また照射法や線量にもよりますが、胸部への照射では数か月後に放射線肺臓炎を来すことがあり、これに新型コロナウイルス肺炎が重なると重症化のリスクが高くなる可能性は否定できません。放射線治療が他のがん治療に比べて危険性が高いとは考えにくいですが、がん患者さんは健康人より新型コロナウイルス感染の重症化リスクが高いことがわかっていますので感染予防を徹底する必要はあります。


2)新型コロナウイルス流行地域での放射線治療を中断、延期すべきでしょうか?

ごく早期のがんやホルモン療法などの待機治療が可能な前立腺がん、リスクの低い乳がんなどで、放射線治療の延期が可能な場合もありますが、がんの治療開始を遅らせることによる影響の有無とその程度について、主治医と十分に相談する必要があります。あなたの病状や治療の内容、あなたのお住まいの地域の新型コロナウイルスの流行状況などによって異なりますが、放射線療法の延期は好ましくないことが多いと思われます。放射線治療をうけることが心配でしたら、主治医に十分に相談してください。放射線治療の中断も治療効果を低下させるので、できるだけ避ける必要があります。特別な理由が無い場合には可能な限り継続してください。
そのほか放射線治療開始前、治療中、終了してからの注意事項は、日本放射線腫瘍学会の一般向けホームページに書かれていますので参考にしてください。

https://jastro-covid19.net/patient/

薬物治療について

Ⅰ.細胞傷害性抗がん薬
1)現在化学療法を行なっていますが、このまま継続しても良いでしょうか?

あなたの病状と現在の治療内容によって変わりますので、主治医とご相談ください。治療を定期的に行なっている場合には、発熱などが起きた場合の対応を主治医と事前に相談しておくことが良いでしょう。


2)化学療法中に発熱したらどうしたらよいですか?

主治医に確認して受診が必要か相談してください。
息切れも伴う場合には診察する場所の準備が必要になる場合があるので、事前に連絡していただいた方が良いと思います。


Ⅱ.分子標的薬
1)分子標的治療を受けていますが、新型コロナウイルス流行時に治療を続けても大丈夫でしょうか?

がんの種類や分子標的治療薬の種類によっても異なりますが、多くの分子標的治療薬は治療を継続しても新型コロナウイルスの感染リスク・重症化リスクは上昇しないと予想されます。特にがんの増殖に不可欠な分子をターゲットにした分子標的治療薬(EGFR遺伝子変異を持つ肺がんに対するEGFR阻害薬、BRAF遺伝子変異を持つ肺がん・悪性黒色腫に対するBRAF阻害薬+MEK阻害薬併用療法など)の場合、治療によるメリットが大きいと考えられるため治療の継続をおすすめします。
一方で、新型コロナウイルス流行時に行う分子標的治療のデメリットとして、下記の点が挙げられます。  
  • 分子標的治療薬の副作用である肺炎(薬剤性肺炎)が起こった場合、新型コロナウイルス肺炎と区別がつきにくく肺炎に対する治療が遅れる可能性がある
  • 一部の分子標的治療薬(mTOR阻害薬、CDK阻害薬や細胞傷害性抗がん薬と併用する血管新生阻害薬など)では、副作用による白血球減少のため新型コロナウイルス感染症の発症リスクが高まる可能性がある

また、通院により新型コロナウイルスにかかるリスクを減らすために、通院回数を減らすことが可能かどうかについても考慮されます。治療のメリットとデメリット、通院間隔については主治医とよく御相談ください。

注 2020年12月18日現在、これらの薬剤で新型コロナウイルスにかかりやすくなるというデータは報告されていません。

免疫療法について

1)免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けていますが、新型コロナウイルス流行時に治療を続けて大丈夫でしょうか?

免疫チェックポイント阻害薬により新型コロナウイルスの感染リスクが高まるというデータはありません。また、免疫チェックポイント阻害薬による治療中により新型コロナウイルスに感染した場合、通常に比べ重症化しやすいかどうかについてですが、重症化しやすいとの報告と重症化には関係しないとの報告なされており、現時点では一貫したデータがなく明らかとなっておりません。このため、現時点(2020年.6月27日現在)で積極的に免疫チェックポイント阻害薬を中止する根拠はないと考えられます。
一方で、新型コロナウイルス流行時に行う免疫チェックポイント阻害薬治療のデメリットとして下記の可能性が考えられます。
  • 免疫チェックポイント阻害薬の副作用である薬剤性肺炎が起こった場合、新型コロナウイルスによる肺炎と区別がつきにくく肺炎に対する治療が遅れる可能性がある
  • 理論上、免疫チェックポイント阻害薬投与中に新型コロナウイルスに感染すると重症化リスクが高まる可能性が否定できない

実際の免疫チェックポイント阻害薬継続の可否にあたっては、治療のメリットとデメリットについて主治医とよく御相談ください。また、通院によって新型コロナウイルスにかかるリスクを減らすため投与間隔を普段よりも長くする、あるいは一時的に休薬し通院回数を減らすことができるかどうかについても併せて御相談ください。

ホルモン治療について

Ⅰ.前立腺がん
1)新型コロナウイルスの感染が拡大している状況下で、前立腺がんに対するホルモン療法は行うべきでしょうか?

転移のある前立腺がんに対する薬物治療は開始するべきであり、その際は抗がん剤よりホルモン療法を優先させるべきです。抗がん剤の場合、白血球が下がるなどの副作用が起きて入院治療が必要になることがあるからです。さらに前立腺がんに対するホルモン療法を行っている患者さんはCOVID-19に感染しにくいとの報告もあるからです。ホルモン療法の注射をする場合、1か月製剤より作用期間の長い3か月あるいは6か月製剤を用いるべきです。ステロイドホルモンを治療の一部として用いる際は、感染症のリスクが上がることを考慮して、その使用を最小限にするべきです。


Ⅱ.乳がん
1)抗ホルモン薬を内服していますが、飲み続ける必要はありますか?

通院あるいは電話等での診療を通して処方箋を発行し内服を続けていただくことができますが、ご高齢であったり、すでに5年以上内服されている方は、内服を中止することも可能ですが、主治医とご相談ください。


2)術前の治療として抗ホルモン薬を内服中です。予定されている手術が近づいていますが、その時期に手術を受けなければだめですか?

薬が効いて腫瘍が縮小したり消失しているようでしたら、治療期間を半年から1年程度行った上で手術を行うことも考慮されます。主治医に画像診断できちんと評価していただいた上で相談してください。


3)再発乳がんのため抗ホルモン薬の治療中ですが、分子標的治療を追加する場合があると主治医から言われています。白血球減少や間質性肺炎などの副作用があるようですが、追加しなければだめですか?

今の治療が効果的でしたらこのまま治療を継続し、CDK4/6阻害薬やmTOR阻害薬などの追加を見合わせることも考慮されますので、主治医と相談してください。


Ⅲ.婦人科がん
1)子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がん等に対するホルモン治療に関しての考慮事項はどのようなことがあるでしょうか?

①子宮内膜異型増殖症もしくは、早期子宮体がん(子宮筋層浸潤のないIA期高分化型類内膜癌)と診断された患者さんのうち、子宮の温存を希望する方に対しては、一般的に高用量メドロキシプロゲステロンを用いた黄体ホルモン治療をうけることが考慮されます。COVID-19感染蔓延下の状況では、腫瘍の進行が緩徐と予想され、多量の出血などの自覚症状が無い場合などは、主治医と受診間隔の調整を行うことも考慮されます。
②子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がん等では、黄体ホルモン治療により病気の進行を遅らせられる可能性があります。COVID-19感染蔓延状況によって手術待機をせざるを得ない場合には、待機している間にホルモン治療を行うことが考慮されますので、主治医とご相談ください。腫瘍が黄体ホルモン治療に反応することが期待できる場合には、子宮外病変があっても、主治療の延期中に黄体ホルモン治療を行うことが考慮できる可能性もあります。

補助的な治療について

1)定期的に輸血を行なっています。このまま継続してもよいでしょうか?

元々のご病気によりますので主治医に一度ご相談ください。


2)定期的に骨折予防の薬を投与しています。このまま継続してもよいでしょうか?

薬の種類次第では飲み薬に切り替えることも可能です。主治医にご相談ください。

6.緩和ケア

1)緩和医療を外来で受けています。治療は続けられますか?

基本的に緩和医療の継続は可能です。がんによるつらい症状を和らげることは、生活の質の改善につながりとても大切なことです。流行状況にもよりますが、医療機関では最大限の配慮をしながら、できる限りの対応に努めています。一方で、不要な外出や接触を減らすことは患者さんを守るためだけでなく、流行状況を収束させることにも有効です。受診頻度を減らし外来通院期間を延長することや、電話やオンラインでの診療に切り替えることが無理のない範囲で可能かどうか、主治医に相談してください1)


2)新型コロナウイルスが心配なので、通院を中断しても良いですか?

医療機関での接触や通院のための外出が不安という気持ちはよくわかります。しかし、緩和医療のための通院が中断できるかは、患者さんそれぞれの病状により異なります。例えば、ステロイド剤を内服されている患者さんが通院を中断し、内服も中断されるとステロイドホルモンの不足により副腎不全という深刻な状態に陥ってしまうこともあります。また、疼痛の緩和目的で放射線治療を行っている患者さんの場合では、中断により放射線治療の効果が限定的になってしまうなどの不利益が予想されます。主治医とよく相談して不安を共有していただき、通院の中断が可能か、間隔の延長は可能か、オンライン診療への切り替えが可能かなどの方法をご検討いただければと思います。


3)緩和医療で使用する鎮痛剤が新型コロナウイルス感染症を悪化させる、と聞いたのですが?

一時、イブプロフェンなどの解熱鎮痛剤が新型コロナウイルス感染症を増悪させる、との報道がなされました。しかしながら、現在のところこれを支持する科学的な根拠はありません(WHO、2020年4月19日時点)。がん性疼痛などの治療目的で鎮痛剤を使用される場合も、通常と同様に使用可能と考えられます2) 3)


4)緩和病棟への転院を検討していますが、入院できますか?

日本緩和医療学会が行ったアンケートでは、全国の半数以上の緩和ケア病棟で患者さんの受け入れ状況に変化があったことが明らかになりました。その時の流行状況に影響されますが、まずは希望される緩和ケア病棟にご相談いただければと思います4)


5)親しい人が緩和病棟に入院しています。面会はできますか?

全国の緩和ケア病棟を対象とした前述のアンケートで、新型コロナウイルス感染症流行中にはほとんどの施設で面会制限をしたことが明らかとなっています。その面会制限も施設により様々であり流行状況にも影響されると思われます。多くの緩和ケア病棟で、メッセージカードやノートでのやり取り、スマートフォンやタブレットによるオンライン面会等の取り組みも行われています。まずは、対象の施設に問い合わせいただくことをお勧め致します。面会が可能であった場合でも、感染対策に十分に配慮をしていただくようお願いいたします。


6)在宅で家族が緩和療養をしています。注意することはありますか?

家族内の発症は在宅で緩和医療を受けている方だけでなく、往診や訪問看護、在宅ケアサービスなどに感染が拡大する可能性があります。介護者の方は、最大限の感染防止に努めていただくだけでなく、ご自身の体調管理にも注意をお願いいたします。この他、日本在宅ケアアライアンスによる新型コロナウイルス感染対策をご参照ください5)

1) 厚生労働省「オンライン診療に関するホームページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00010.html

2) WHO「The use of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) in patients with COVID-19」
https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/the-use-of-non-steroidal-anti-inflammatory-drugs-(nsaids)-in-patients-with-covid-19

3) 厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00004.html#Q22

4) 日本緩和医療学会「新型コロナウイルス感染症に対する対応に関するアンケート」
https://www.jspm-covid19.com/wp-content/uploads/2020/05/%E7%AC%AC1%E5%9B%9ECOVID-19%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E9%80%9F%E5%A0%B120200523.pdf

5) 日本在宅ケアアライアンス「在宅ケアにおける新型コロナウイルス感染対策について」
https://www.jhhca.jp/covid19/200422action-policy/

7.治療後の経過観察や通院

1)がん治療を受けています。治療に行くのが心配なのですが、どのようにしたら良いのでしょうか?

がん治療を受けていて、受診することが心配な場合、次の治療に行く前に病院に連絡し、指示に従ってください。一部の人はがん治療を安全に遅らせることができますが、治療を遅らせることができない人もいるためです。
もし、あなたが内服抗がん剤を服用している場合、電話等での診療ののち、処方箋をFAX等で薬局へ送信してもらい、電話等で服薬指導を受けて、薬剤を配送してもらうことが時限的、特例的に可能です。病状が安定していることなど、いくつかの要件を満たすことが必要です。希望する場合には通院中の医療機関に相談してください。
また、COVID19の流行状況により、現在通院中の医療機関から、COVID19患者を診療していない医療機関等への通院を要請されることがあるかもしれません。そのため、通院中の医療機関とよく連絡を取り、情報を入手してください。

https://www.cancer.gov/contact/emergencypreparedness/coronavirus

参考資料
令和2年4月10日厚生労働省医 政局医事課、医薬・生活衛生局総務課事務連絡 「新型コロナウイルスの感染拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」


2)私はがんサバイバーで、再発の可能性を検出するために定期的に検査を受けています。この検査を受け続ける必要がありますか?

一般に再発がないかどうかの検査は、一定の間隔でおこなわれるもので多少の延期は問題ないと考えられます。主治医の先生と連絡を取り、スケジュールを調整して下さい。
ただし、がんの再発が疑われるような新しい症状が現れた場合は、次の予定されている受診を待たずに、主治医に相談して下さい。

https://www.cancer.net/blog/2020-04/common-questions-about-covid-19-and-cancer-answers-patients-and-survivors


3)がん患者やがんサバイバーが、発熱や咳などの新型コロナウイルス感染症の初期症状を自覚した場合、どのようにしたら良いでしょうか?主治医や地域のお医者さんにすぐにかかった方が良いでしょうか?

あなたががん治療中であれば、主治医に電話で連絡し、必要な指示を受けてください。連絡無しに病院を訪れることは避けて下さい。
また、あなたが現在はがん治療を行なっていないがんサバイバーの場合は、かかりつけ医に電話で相談し、必要な指示を受けて下さい。同様に連絡無しに病院を訪れることは避けて下さい。


4)がんサバイバーは、新型コロナウイルス感染対策に関する一般公衆衛生上の推奨を守るべきですか?

もちろんです。一般の方と同様に、手洗いをしっかりとこまめにおこなうこと、咳エチケットを守ること、正しくマスクを着用すること、社会的な距離を保つことを守ってください。また感染拡大を防ぐために、換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まることを避けてください。

https://www.cancer.net/blog/2020-04/common-questions-about-covid-19-and-cancer-answers-patients-and-survivor

厚労省ホームページより:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html


5)私は自分の診断や、勧められた治療についてセカンドオピニオンを求めたいと考えますが、すぐには出来そうにありません。どうしたら良いでしょうか?

セカンドオピニオンをおこなうことは非常に重要なことです。しかし現在、医療機関によっては、セカンドオピニオンの対応が難しい場合があることを理解して下さい。電話等で相談できれば、セカンドオピニオンの代替とすることを主治医と検討して下さい。また、一部の医療機関、診療科ではオンラインでのセカンドオピニオン外来をおこなっているところがあります。必要な手続き、費用などについては各医療機関のホームページなどを確認してください。

https://www.cancer.net/blog/2020-04/common-questions-about-covid-19-and-cancer-answers-patients-and-survivors

8.生活上のアドバイスなど

1)今後の感染拡大が心配で不安です

感染症の影響で長期にわたり生活の変化が求められています。がんの心配に加え感染拡大が懸念されていますので、心配や不安を抱えるのは無理もありません。自分は大丈夫、と思っていても心理的負担をすでに抱えている場合もあります。現在でも身近な人や主治医などの医療従事者と十分なコミュニケーションがとれない状況が続いています。ひとりで悩んでしまわないようにすることが大切です。次のようなことを心がけてみてください。
  • 電話やメールなどで身近な人と話したりして、できる限り連絡を取り合うようにしましょう。
  • 適度な運動やバランスのよい食事と睡眠、禁煙、節度のある飲酒を心がけて規則正しい生活を送りましょう。ストレス解消の基本は睡眠です。また、自粛生活が長期化していますので、意識してストレッチや運動を取り入れましょう。
  • 読書や料理など趣味を楽しんで気分転換をしましょう。
  • テレビやインターネットなどの情報を見過ぎないようにしましょう。
  • 心配や不安が強いときには医療従事者やがん相談支援センターに相談してみましょう。

わからないことや心配なことがあるとき、おかかりの病院の受付に電話をして、主治医や看護師等へ連絡し、対応方法を相談してください。体調の変化、医療費の支払いや生活費などの不安や心配事については、がん相談支援センターなどの電話相談を利用することもできます。

◆がん診療を行っている病院やがんの相談窓口について「がん診療連携拠点病院などを探す」
https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpKyotenSearchTop.xsp

◆「がん相談支援センターとは」
https://ganjoho.jp/public/consultation/cisc/cisc.html

◆「がん相談支援センターを探す」
https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopSoudan?OpenForm
病院の代表番号にかかりにくい場合でも、こちらに記載がある直通番号へは、つながりやすいこともあります。

◆「WHOへリンク」 Covid-19流行によるストレスへの対処
https://extranet.who.int/kobe_centre/sites/default/files/pdf/Coping-with-stress-print-JPN%20ver.pdf


●家族や周りの人へ

1)入院中の家族との面会はできますか?

多くの病院では、面会は原則として禁止しています。しかし、入退院の送迎や、状態が不安定なときなどの面会、病状説明については、主治医の判断で決められることが多いようです。ただし、できるだけ少ない人数で短時間であることが求められます。患者さんもご家族と会えず不安を抱きますし、ご家族も面会制限が続き心配が尽きないと思います。苦渋の面会制限が続きますが、病院では状況に応じて何等か対応してもらえる場合もありますので、まずは、病院に電話で問い合わせてみましょう。


2)通院の付き添いはどうしたらよいでしょうか?

通院に付き添う際には、発熱や咳などの症状がなくても、マスクを着用するほか、咳エチケット(咳やくしゃみをする際に、ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえる)や手洗いの徹底を心がけるなどの周りの人への気遣いをお願いします。付き添う人に熱があったり、風邪の症状があったりする場合には、他の人に代わってもらいましょう。


3)面会が制限されていて、入院している家族に会うことができません。何かいい手段はないでしょうか。

入院されている患者さんに面会できないことが多くの医療機関で続いています。直接会うことが難しい場合にも、医療機関によっては、電話やスマートフォンやタブレットを使って、オンラインで間接的に会えるようにしてくれるところもあります。一方で、新型コロナウイルス感染症の影響で、医療スタッフが十分な人数いないなど、対応が難しい場合がありますので、どのような対応方法が可能か、問い合わせてみましょう。


4)治療や外来受診以外のために(例えばがんの治療に関わる相談など)病院に行っても大丈夫でしょうか?

急ぎではない用件の場合、各病院への立ち入りは制限されている場合があります。病院に行く必要がある場合には、まず病院のホームページや電話で確認しましょう。もし治療や体調の変化の他にも、生活費や医療費の支払いなどを含め不安や心配事があるときには、がん相談支援センターなどの電話相談を利用することもできます。やむを得ず病院に行く場合には、十分な感染対策をとる必要があります。

◆厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般向け)」「新型コロナウイルス感染症の予防法」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html


5)受診の付き添いや面会の制限がある中、がんや治療に関する情報が十分に得られず不安です。

家族が付き添いや面会に行けず、主治医から直接話を聞く機会が限られてしまう状況が多くなっています。情報が断片的であったり、不足していたりすると、最悪の状況を想像してしまい大きな不安を抱くことにもなります。インターネットで関連する情報を検索する場合も多いかと思いますが、限られた情報を基に患者さんの状況に応じた情報を探すのは難しく、正しい情報にたどり着けるとも限りません。
がん相談支援センターでは、一般的な医学情報の提供を行っています。患者さんだけでなく、家族や友人でも無料で利用することができます。個別状況に応じた医療アドバイスなどの対応はできませんが、対面だけでなく電話でも信頼できる情報の提供、困っていることの解決策を一緒に考えてもらうことが可能です。利用してみましょう。

◆国立がん研究センターがん情報サービス「がんの相談」
https://ganjoho.jp/public/consultation/index.html


6)病院で開催されている患者サロンなどの集まりに参加できますか?

安全性を考えて、これまで対面で行われていた患者サロンなどは休会・延期となっている病院が多いようです。しかし地域や病院によっては、患者サロンやピアサポートの再開を検討したり、オンライン開催を検討しているところもありますので、ご確認ください。
なお、電話やSNS、オンライン会議システムを使って、交流の場を提供している患者団体などもあります。制限された中で、信頼できる人たちや仲間とのつながりは、あなたの支えになります。ぜひさまざまな方法を工夫してみてください。どうしたらいいかわからない場合には、がん相談支援センターで一緒に考えることもできます。相談してみましょう。

がんの種別の治療について

Ⅰ.血液腫瘍

●血液悪性腫瘍

1)急性骨髄性/リンパ球性白血病と診断されました。新型コロナウイルスが流行していますが、治療を開始しても大丈夫でしょうか?

迅速な治療が必要な疾患ですので、治療開始を延期しないで下さい。疑問点があれば十分に主治医と相談してください。また、診断時に感染症を伴っている場合も多く、流行期では新型コロナウイルス合併も懸念されますので、覚えている範囲で良いので、主治医からの行動歴に関する問診に答えてください。


2)慢性骨髄性白血病と診断されました。新型コロナウイルスが流行していますが、症状もない/軽微なのですが、治療を開始しても大丈夫でしょうか?薬の副作用で感染しやすくならないのでしょうか?

主治医と相談の上で早期の治療開始を推奨します。現在は経口薬で治療ができます。現時点で、慢性骨髄性白血病で使用される薬剤が、新型コロナウイルス感染のリスクに影響を与えることは報告されていません。


3)慢性リンパ球性白血病と診断されました。新型コロナウイルスが流行していますが、治療を開始しても大丈夫でしょうか?

治療開始のタイミングは主治医の指示に従うようにしてください。慢性リンパ球性白血病は感染症のリスクが非常に上がりますので、感染予防をより気をつけて行いましょう。免疫グロブリンを補充することもありますが、そのタイミングも主治医と相談してください。


4)悪性リンパ腫と診断されました。新型コロナウイルスが流行していますが、治療した方がよいのでしょうか?

悪性リンパ腫の治療方針は、組織型(細胞のタイプ)で大きく異なります。組織型を踏まえて、主治医の指示に従ってください。


5)多発性骨髄腫と診断されました。新型コロナウイルスが流行していますが、治療した方がよいのでしょうか?

症状を伴っている場合には治療開始時期を延ばすことは推奨されませんので、主治医の判断に従ってください。治療薬の組み合わせも多岐に渡り、あなたが抱えている基礎疾患などで組み合わせが変わります。


●HIV関連悪性腫瘍

・カポジ肉腫

1)現在、カポジ肉腫を持ちながらHIVの治療薬を内服中です。主治医から抗がん剤の開始を勧められました。開始しても良いのでしょうか?

HIVの治療薬を行なっているのみでは改善しない病勢/また必要な状態であると、主治医が判断されたと思います。主治医の指示に従ってください。


2)HIV関連キャッスルマン病と診断されました。治療開始をすすめられたのですが開始しても良いのでしょうか?

周期的に発熱や疲労を反復する疾患ですが、診断後に治療介入を行わないことで命に関わることがありますので、主治医の判断に従ってください。病勢次第で、抗がん剤またはリツキシマブという分子標的薬を使用します。治療開始時にはこれまで以上の感染予防を行うようにしてください。

Ⅱ.肺がん

1)新型コロナウイルス流行期の肺がん手術に対して基本的にどのように考えれば良いですか?

一般に肺がん患者には喫煙者が多く、元々間質性肺炎や肺気腫をもった患者さんが多くおられます。肺がんの手術ではこういう患者さんから肺を切りとることになるので、他のがんの手術に比べてリスクは高いと思われます。実際、武漢の同済病院からの報告によると胸部外科手術後に新型コロナウイルスを発症した11名の死亡率は27%、武漢大学では胸腔鏡下肺切除3名のうち2名が死亡したと報告されています。従って新型コロナウイルスが確定している患者さんの手術はよほどの緊急性がない限り行うべきではありません。
米国外科学会の待機的手術トリアージガイドラインによると、病院の新型コロナウイルス蔓延程度を三つのフェーズに分類しています。(フェーズI: 準緊急期  新型コロナウイルス患者の急速な増加が認められず、病院資源が保たれ、ICUでの人工呼吸器管理が可能な時期、フェーズII:緊急期 新型コロナウイルス患者が急増し、ICUの人工呼吸器に制限がある、手術室備品が不足、 フェーズIII: 病院資源が全て新型コロナウイルス対策に向けられている、ICUの人工呼吸器使用不能、手術室備品が枯渇)。そして、このフェーズと手術の緊急性必要度のバランスで手術を行うかどうかを決定することを薦めています。肺がんの手術に当てはめてみると、フェーズが進むに従って手術を延期する順番は「悪性度の低い癌」、「進行がんであるが代替治療が存在し、手術を行っても予後が不あまり期待できない場合」、そして最後まで手術の可能性を追求すべきなのが「進行がんであり手術が唯一治癒のチャンスをもたらす患者」、ということになります。フェーズIIIともなれば通常のがん手術を行うことは不可能でしょう。実際の現場ではこのようなバランス感覚が要求されるため一概に言うことは難しく、主治医とよく相談することがとても重要だと思われます。


2)すりガラス影を主体とする肺がんI期と診断されています。今、手術をうけるべきでしょうか?

このような症例は一般に予後がよいので、フェーズIであっても、2-3か月延期することは合理的ですし、予後に対する悪影響は少ないと思います。その他「2cm以下の充実影を呈する肺がん」、「肺カルチノイド」、「他疾患の併存のためにICU滞在が長期にわたる可能性のあるハイリスク患者」、「気管切除(悪性度の高い場合を除く)」なども延期可能とされています。主治医の先生とよく相談してください。


3)充実成分の多い(50%以上)肺がんで肺門リンパ節転移があると言われています。手術をうけるべきですか?

上記の例より手術を急ぐ必要がありますので、フェーズIであれば早期の手術が薦められます。通常は術前治療なしで手術を行うことが一般的ですが、手術を遅らせるために術前の薬物療法を行うことはフェーズが進んでくれば選択肢の一つとなります。フェーズIであれば手術を急ぐべき状態としてはほかに、「2cm以上あるがリンパ節転移がない患者」、「臨床試験に参加している患者」、「予定していた術前治療の終了後」、「縦隔鏡や胸膜生検のような治療方針決定のための小手術」などがあります。しかしフェーズIIとなればたいていの待機的手術は延期すべきとされています。


4)1個の縦隔リンパ節転移のあるIIIA期の肺がんです、どうしたらいいでしょうか?

新型コロナウイルスの流行期でなくても手術を行うかは議論のあるところです。わが国の多くの施設では手術を行っていると思われますが、手術の意義はII期の肺がん等とくらべると少ないと言わざるを得ません。それまで手術⇒術後化学療法をおこなっていた施設もフェーズが進むに連れ、術前治療⇒手術、さらに手術をやめて化学放射線療法の順番で、手術を延期するあるいは中止する方策をとることになると思います。


5)2週間前に肺がんの手術をうけて退院したばかりです。3日前から発熱、喀痰があり本日は38度で呼吸の苦しさを自覚するようになりました。どうしたらいいでしょうか?

このような場合は術後肺炎と新型コロナウイルスの両方の可能性がありますが、いずれかをはっきりさせて治療に当たる必要があります。まずはCT検査を行うこととPCR検査等で新型コロナウイルスか否かを決定してからそれぞれの治療に当たる必要があります。いきなり受診するのではなく主治医の先生へ連絡をして指示を仰いで下さい。手術をした病院が新型コロナウイルスの検査や診療できる体制にあれば良いですが、そうでない場合は、いずれかの施設で新型コロナウイルス検査をまず受ける必要があります。


6)最近手術を終わった結果、病理病期がIII期でした。術後補助化学療法をうけるべきでしょうか?

一般に、術後補助化学療法(シスプラチン+ナベルビンなど)はII期、III期の術後に生存率をあげるために行うことが標準治療となっています。この治療による予後の改善程度はIII期がII期より大きいこともわかっています(一方、I期では却って予後を悪くするため行いません)。新型コロナウイルスの蔓延程度によっては延期する選択肢もあります。ある研究では4か月程度術後化学療法を遅らせても通常の6-12週後に始めるのと効果や安全性に差がなかったという報告があります。また75歳以上の患者さん(もともと術後化学療法の臨床試験には75歳以上の患者は含まれていないことが多いこともあります),リンパ節転移なし、合併症を有する患者さんなどでは術後化学療法を行うことを再検討すべきでしょう。


7)過去に肺がんの手術をうけ、現在フォローアップのために定期的に受診しています。今まで通り通院を続けるべきでしょうか?

切除した時の肺がんの進行度(たとえばIA期なのかIIIA期かでは、再発のリスクが異なります)、症状の有無(とくに最近出現した症状、痛みなど、咳嗽、血痰、頭痛など)、術後の経過年数(一般に再発のリスクは手術から時間が経つほど低くなります)によって、受診した結果、再発病変が見つかり治療が開始される確率が異なります。通院しても再発なく順調であれば、結果として受診しなくてもよかったことになります。従って、主治医の先生と相談して再発リスクがすくないと思われるときは蔓延のフェーズにもよりますが、受診を延期することが可能なことも多いでしょう。主治医の先生とよく相談してください。


8)局所進行肺がんで化学放射線療法を行うと言われていますが、新型コロナウイルス流行時であっても大丈夫でしょうか?

化学放射線療法を行う局所進行肺がんは、内科的な治療により治る可能性のある進行度と考えられます。このため、できる限り通常通りの治療を受けることが望ましいのですが、どうしても治療を延期しないとならない場合は主治医と治療のタイミングについて慎重な相談が必要です。


9)進行肺がんで放射線や手術の対象でなく薬の治療を担当医にすすめられていますが、新型コロナウイルス流行時であっても抗がん剤などの治療を受けて大丈夫でしょうか?

進行肺がんで放射線や手術の対象でない場合、薬の治療(薬物治療)が主体になりますが、肺がんの薬の治療は大きく分けて、細胞傷害性抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬の3つに分かれます。病気の状況に合わせて、これら3つのうちの一つ、あるいはその組合せにより治療を行います。問題は、これらの治療を受けることで新型コロナウイルスにかかった場合、重症化しやすくなるかどうかですが、この点については一貫した結論が得られていません。抗がん剤治療によって重症化リスクが増すとの報告がある一方で、細胞傷害性抗がん剤治療や分子標的治療、免疫チェックポイント阻害薬の使用歴があっても新型コロナウイルスによる重症化リスクは上昇しなかったとの報告もあります。これらの研究結果だけではっきりとした結論を出すには時期尚早ですが、少なくとも現段階では肺がんに対する薬物治療と新型コロナウイルス重症化に明らかな関連性を示す根拠はないと考えられます。一方で、感染のリスクに関しては、細胞傷害性抗がん剤と言われる治療薬は副作用として、ウイルスを排除するための白血球が減るため新型コロナウイルスに感染するリスクが上がる可能性がある点には注意が必要です。
実際の治療にあたっては、その時の新型コロナウイルスの流行状況や、あなたの肺がんの状態などを考慮し、薬の治療開始の延期や、治療間隔の延長などを検討すべきかどうか担当医との相談が望ましいと思います。

Ⅲ.食道がん

一般に食道がんの手術は、体への影響がとても大きいことから、手術後にICUなどで人工呼吸器管理が必要となることがあります。一方、新型コロナウイルス感染症の患者さんが増えると、その治療にICUや人工呼吸器、医療スタッフの多くがとられてしまい、食道がんの手術も延期などの影響を受けやすくなります。
その病院での新型コロナウイルス感染症の広がりやマンパワーを含む医療資源の状況により、手術の時期が判断されます。主治医は、あなたの病状とともにそれらの状況を判断して、今あなたにできる最善の治療を考え、治療時期や方法の提案を行います。心配なことがあれば、医師に何でも質問しましょう。あなた自身が納得して治療を受けることが大切です。

下記のQ and Aでは、各医療機関の新型コロナウイルス感染症による影響(新型コロナウイルス感染症の患者数や使用可能な人工呼吸器の数、マンパワーやマスク・ガウンなどの医療資源の状況など)の程度により、判断することが必要と思われます。

フェーズ I: 新型コロナウイルス感染症患者がほとんどいない。病院の治療資源が枯渇していない。ICU での人工呼吸器にまだ余裕がある。病院内の新型コロナウイルス感染症の患者の増加傾向が急速ではない状態。
フェーズ II: ICU での人工呼吸器が限られている。病院内の新型コロナウイルス感染症の患者が急速に増加している状態
フェーズ III: 病院の治療資源が全て新型コロナウイルス感染症の患者のために使用されている状態。ICU で使用できる人工呼吸器がない状態


1)早期の食道がんで内視鏡で治療するといわれたのに、延期するのはなぜですか?

非常に早期の食道がん(粘膜内がん)の場合には、治療延期によるがんの進行に大きな影響がないと考えられるため、新型コロナウイルス感染症が広がっている時期には、延期が検討されます。また、新型コロナウイルスが空気中に発出されるエアロゾル発生(細かい粒子が空気中に漂う)の原因となる内視鏡検査自体も感染が拡大している時期には延期することが検討されます。


2)手術が必要な比較的早期の食道がんの手術は受けられますか?

手術が必要な比較的早期の患者さんは、フェーズ Iの病院 では、手術を延期なく行うべきと考えられます。ただし、肺の病気などを合併しているために早期の術後人工呼吸器での管理が長くなることが予測される患者さんや、全身状態がよくないため術後ICUでの管理期間が長くなることが予想される患者さんは、手術を延期すべきと考えられています。また、フェーズ II、 IIIの病院では、フェーズ Iの病院への転院が考慮される場合があります。
非手術的治療法として、完治を目指した化学放射線療法(根治的化学放射線治療)も考慮するべきです。


3)進行食道がんの治療は受けられますか?

フェーズ Iの病院では、進行食道がんの患者さんは、基本的に手術を考慮すべきだと考えられます。最近の報告では、手術を8週間以上延期すると、治療成績が悪化する可能性が示唆されています。

フェーズ I の状態では
  • 術前の化学療法が適応となる患者さんであれば可能な限り術前の化学療法を施行する。また、術前の化学療法が終了している場合にはさらに化学療法の追加も考慮する。なお、最近の報告では、術前の化学療法から手術までの期間は、6-8週間程度が望ましいとされております。
  • 食道狭窄を起こしている患者さんは、化学放射線療法も考慮する。
フェーズ II の状態では、
  • 食道がんにより食道に穴が開いている場合には、手術を考慮すべきである。
  • 患者さんをフェーズ I の病院へ転院させることも考慮する。
  • 可能なら術前の化学療法を、完治を目指した化学放射線療法(根治的化学放射線治療)に変更することも考慮する。
フェーズ III の状態では、
  • 食道がんの穴があいたために敗血症に陥った場合には、手術を考慮すべきである。
  • 食道がんにより、気道が閉塞しそうな患者さんには手術を考慮すべきである。
  • 患者さんをフェーズ I、II の病院へ転院させることを考慮する。

4)術後合併症を回避するには術前PCR検査は必要ですか?

食道がん手術は呼吸不全のリスクが高く、可能ならば、術前の新型コロナウイルス感染の有無を評価することが望まれます。新型コロナウイルス蔓延地域においては、胸部CTやPCR検査などの選択肢がありますが、その有効性に関するコンセンサスは得られていません。
中国の報告によると、がん患者において過去1か月以内に化学療法を受けた若しくは手術加療を受けた患者は、新型コロナウイルスに感染すると、高率で重症化すると報告されています。
したがって、新型コロナウイルスの感染の有無を術前に把握することは望ましいと思われます。


5)新型コロナウイルス感染症が蔓延すると術後の人工呼吸器の確保はできますか?

新型コロナウイルスが蔓延する地域では、人工呼吸器をはじめとする集中治療管理のための医療資源が不足する可能性があるため、より大規模な病院に転送の上、手術することも選択肢の一つです。
特にフェーズ IIにある病院では、食道がん手術待機の場合はフェーズ Iの病院への転送も考えられるでしょう。


6)術後の外来受診は控えるべきですか?

新型コロナウイルス感染に当てはまる症状がある場合には、まず患者さんが自ら発熱者外来に連絡し、発熱者外来への受診が必要かどうか指示を仰ぎましょう。
退院後や前の受診と身体の状態が変わらない場合には電話で主治医と相談し、可能な限り受診を控えるように調整することもあります。ただしCT等画像検査に関しては主治医の判断で受診を勧められることがありますが、受診に際しては病院滞在時間・他人との接触を最低限に抑えるよう努めましょう。

Ⅳ.胃がん・消化管間質腫瘍(GIST)

胃がんは悪性疾患なので治療が必要です。転移をおこすGISTも治療が必要です。COVID-19の流行が長期化しているので、ご自身やご家族の体調や地域の流行状況で一時的な延期はあるにしても、経過観察を続けることは勧められません。


1)早期胃がんが見つかり、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を予定していましたが、今行うべきですか?

月単位で延期することは可能です。6か月以上延期する場合はがんの状態を診断するために内視鏡検査を勧めます。ESDを行えば病理診断ができ、必要な場合は追加切除ができます。


2)早期胃がんが見つかりましたが、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応ではなく、手術を勧められました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で手術の延期を勧められました。大丈夫でしょうか?

月単位で延期は可能です。できれば6か月以内の手術を勧めます。


3)胃がんの手術後の抗がん剤治療を勧められました。受けた方がよいのでしょうか。

進行病期(がんのステージ)と再発リスクの程度を主治医から充分に説明してもらい、術後化学療法を行った方がよいのかどうか、よく相談して決めてください。


4)手術後の抗がん剤治療中の外来診療は、通常通りで良いでしょうか?

検査や薬剤投与について、通常どおりが望まれます。個人差があり、体調も変化しますので、主治医とよく相談してください。病院のスタッフとの電話相談で対応できる場合もあります。
白血球減少など免疫力の低下がおこる場合がありますので、外出自粛や手洗いなどの感染対策を十分に行ってください。また、同居している家族がいる場合には、ご家族の方にも感染対策をしっかりしてもらうよう伝えましょう。


5)胃がんに対する胃切除後の定期検査は中断や受診を延期することはできるでしょうか。

ガイドラインに沿った3か月毎の腫瘍マーカー測定、6か月毎のC T撮影という定期検査が望まれます。検査の必要性と通院に伴う感染リスクについて主治医から説明を受けて、検査の時期についても主治医と相談してください。何か気になる症状があるかどうかなど、病院のスタッフとの電話相談で対応できる場合もあります。


6)自宅で化学療法中の発熱・呼吸器症状やその他の症状を出た場合はどうしたらよいでしょうか?

日中・夜間を問わず、すぐに主治医・病院に連絡してください。


7)胃の消化管間質腫瘍(GIST)の診断を受けましたが、新型コロナウイルスの感染拡大があり、手術を見合わせた方が良いと言われました。大丈夫でしょうか?

胃の消化管間質腫瘍(GIST)の場合は胃がんに比べると治療開始までの時間的余裕があります。通常であれば、原則として手術が勧められますが、判断するには腫瘍の大きさが重要です。2cm以下の腫瘍であれば経過観察も可能です。手術時期については主治医と相談してください。
5cmを超える腫瘍であっても、月単位で手術の延期は可能です。できれば6か月~1年以内の手術を勧めます。生検でのリスク分類やCTでの進行度を参考に、悪性度によって手術の時期を延期してください。
2~5cm以下の胃GISTは、月単位での手術の延期は可能です。6か月~1年後の内視鏡検査を勧めます。生検でのリスク分類やCTでの進行度を参考にした悪性度によって手術の時期を延期してください。
2cm以下の胃GISTは延期可能と考えます。1年後の内視鏡検査を勧めます。

Ⅴ.大腸がん

1)便潜血検査陽性でしたが、検査をうけるべきですか?

精密検査の下部消化管内視鏡検査によって大腸がんが見つかれば、進行度によっては早急な治療が必要な場合もあり、検査によってその後の対応が変わってきます。検査は受けるべきですが、新型コロナウイルス感染対策がなされている病院での実施を推奨します。


2)大腸内視鏡検査で早期がんを認めました。大腸内視鏡による内視鏡的粘膜切除術(EMR), 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)治療は早期に受けるべきですか?

早期大腸がんでは、治療を延期することも選択肢の一つとなります。新型コロナウイルスに感染した方あるいは感染が疑われる方に対しては、治療の延期が強く勧められています。しかし、早期大腸がんの進み具合によって、主治医の先生がやむを得ないと判断された場合は適切な時期に治療を受けてください。


3)大腸がん手術は延期できますか?どれくらい延期してもよいのでしょうか?

早期大腸がんでは、がんの進み具合によって、3か月間手術を延期することも選択肢の一つとなります。しかし、進行大腸がんでは、適切な感染予防策を取れる病院で手術を受けてください。新型コロナウイルスに感染した方あるいは感染が疑われる方に対しては、代わりの2~3か月の抗がん剤治療などを主治医の先生と相談し、主治医の先生がやむを得ないと判断された場合は適切な時期に手術を受けてください。


4)大腸がんの手術後の抗がん剤治療は受けた方がよいですか?手術からの開始時期を遅らせたり、投与間隔を空けてもよいですか?

患者さん毎にリスクとベネフィットを考えた上で術後の抗がん剤治療を行うべきか判断する必要がありますが、行う場合は推奨されたスケジュールを外れることはすすめられません。使用する抗がん剤を変更することで投与間隔を調整したり、投与期間を短縮したりすることが推奨されています。主治医の先生とよく相談してください。

Ⅵ.肝胆膵領域の悪性腫瘍

1)症状はないのですが、膵神経内分泌腫瘍と診断されました。手術を予定していたのですが、延期になりました。大丈夫でしょうか?

比較的悪性度の低い腫瘍では、延期も一つの選択肢となります。膵神経内分泌腫瘍の他、十二指腸・乳頭部腺腫、ハイリスクの膵管内乳頭粘液腫瘍などは延期も考慮されます。主治医の先生とよく相談してください。


2)膵がんと診断されましたが、手術が延期されました。どうしたらよいでしょうか?

手術前や手術後の抗がん剤治療の効果が示されているがんでは手術に先立ち、抗がん剤治療を導入できると考えられます。したがって、手術延期が必要な場合には、まず抗がん剤治療をはじめ、手術が可能となる状況まで待つことは許容されると考えられます。


3)肝細胞がんに対する切除術を予定していたのですが、手術が延期されました。どうしたらよいでしょうか。

新型コロナウイルスの蔓延が深刻な地域では、肝細胞がんの画像診断や腫瘍生検の所見から、緊急の治療を要さない患者さんにおいては可能な限り肝切除の延期を考慮すべきです。また、患者さんによっては代替療法としてのラジオ波腫瘍焼灼術(RFA)への治療の変更や薬物療法を最初に行うことで予定の治療までの時間を稼ぐなどの入院の回避や期間の短縮を提案されています。
主治医の先生とよく相談してください。


関連情報
1) 工藤正敏、黒崎雅之、池田公史ら、COVID-19アウトブレイク時における肝細胞がん治療のガイダンスー日本肝がん分子標的治療研究会ワーキンググループレポートー。肝臓2020:61;389-98.

Ⅶ.耳鼻咽喉科・頭頸部領域のがん

1)これから手術を受ける予定だったのですが、手術を受けても大丈夫ですか?

より良い治療のためには治療開始のタイミングが重要です。がんの種類と治療法、体の状態などによって、治療を延期できる場合とできない場合があります。例えば、甲状腺乳頭がんなどのように進行が遅い早期のがんの場合では、手術の延期を勧められることもあります。一方で、進行が早いがんや、窒息や出血の危険性があるがんの場合には、手術を延期することにより、最悪の場合生命が脅かされる場合もあります。現時点では新型コロナウイルス感染が収まる時期が不明であることから、可能であれば予定通りの治療の開始が勧められます。患者さんが新型コロナウイルスに感染していないことが前提となります。ただし、手術の予定の変更に際しては自己判断で手術を中止したり、延期したりすることはしないで、手術予定の病院の受け付けに電話をし、主治医または看護師等へ連絡、相談をしましょう。


2)手術が終わり、これから術後治療を受ける予定だったのですが、始めても大丈夫ですか?

頭頸部がんの術後治療としては、再発の危険度が中等度の患者さんに対しては放射線療法が、高度の患者さんに対しては化学放射線療法が行われるのが標準的です。放射線療法は感染に対する抵抗力の低下を招くことはないので、他の方と同様な感染対策をとった上で治療を受けていただくのがよいと考えられます。化学放射線療法の場合には、感染に対する抵抗力が低下することがあり、肺炎を起こすなど重症化しやすいとの報告もありますので注意が必要です。感染が防ぐことが大変重要です。


3)定期的な検査や診察の予定が入っています。延期してもよいのでしょうか?

がんの治療後の定期的な検査や診察は、自己判断で中止したり、延期したりすることはしないで、かかりつけ病院の受け付けに電話をし、主治医または看護師等へ連絡をしましょう。治療後再発転移なく経過し病状が安定していると判断された場合は、電話やインターネット診察を受け、病院に行かず、もよりの薬局で薬を受け取ることが出来る場合があります。

Ⅷ.口腔がん

新型コロナウイルスは鼻やのどの粘膜、唾液や唾液腺の導管に多く存在し、また口腔(特に舌)粘膜にはウイルスの感染門戸となるレセプターが多く存在することが示されています。そのため、これらの部分の手術は、他の部位の手術に比べ、術中にウィルス感染を周囲に波及させる危険性が高まる可能性があることをまず理解しておくことが必要です。それを理解したうえでそれぞれの治療法のリスクとベネフィットを考える必要があります。


●新型コロナウイルスと口腔がんについて

1)口腔がん患者または口腔がんの治療歴のある患者は、新型コロナウイルスに感染しやすいですか?

免疫機能が低下した方は、一般的に新型コロナウイルスを含む感染症にかかるリスクが高くなることが知られています。免疫機能が低下する原因として、がん、糖尿病、心臓病、肺疾患等の慢性疾患や高齢、喫煙などの生活スタイルなどが言われています。特にがん患者さんは、がんの種類、受ける治療の種類、その他の健康状態および年齢によっては免疫低下のリスクが高くなるため、感染しやすくなることになります。また、口腔がんに限らずがんの治療歴(薬物療法や放射線治療など)がある方は、新型コロナウイルスに感染しやすいということは特にはありませんが、感染した場合、重篤な合併症を発症するリスクが高くなる可能性はあるようです。特に新型コロナウイルス感染症発症4週間前までに薬物療法を受けられた方で男性の方には死亡リスクが高まるという報告があります。しかし、口腔がんだからと言って他のがんと比較して、感染リスクや合併症リスクが高くなるということはありません。


2)口腔がんの診療や検診において新型コロナウイルス感染の危険性が増すことはないでしょうか?

一般に免疫機能が低下した方は、感染のリスクが高くなることは前述の通りです。しかし、外来の日常診療や検診によって、感染拡大した事例や大きなクラスターの発生は現在まで報告されていません。したがって、患者さんや医療従事者が通常の標準的な感染予防策をとっておれば、日常診療においての感染の危険性は極めて低いものと考えられます。それよりむしろ感染を恐れるあまり受診の機会を減らしたり、受診されないことによる発見の遅れが懸念されており、海外でも問題となっています。口腔がんは早期に発見されれば、約90%の方が治癒し、必要な治療も手術もしくは放射線単独ですみ、治療期間も短く、患者さんへの負担も少ないものとなります。どうか受診や検診の機会を逃さないようにしていただきたいと思います。

●口腔がん治療中の方へ

1)現在治療中です。このまま治療を続けても良いのでしょうか?

一般的にがんの初回治療は、決められたスケジュールで決められた治療法を予定通りやり遂げるのが最も高い効果が得られる方法です。口腔がん治療も同様ですが、重篤な副作用が出現した場合は、免疫機能の低下も考えられますので一時的な延期も止むを得ない場合があります。そのため、主治医の判断が必要です。不安に思って自己判断するのではなく、主治医とよく相談することが大切です。また、発熱や咳、味覚やにおいに異常が見られる場合は、必ず報告してください。


2)現在、薬物療法を受けています。新型コロナウイルスに関して注意することはありますか?

薬物療法を受けている場合は、免疫機能が低下していることがあり、新型コロナウイルスを含む感染症にかかるリスクが高くなることが知られています。また、感染した場合、重篤な合併症を発症するリスクが高くなる可能性があることが言われています。そのため、感染を防ぐことが大変重要となります。特に免疫チェックポイント阻害薬を使用されている患者さんは、副作用として間質性肺炎が生じた場合、新型コロナウイルス肺炎が重篤化する危険性が高いことが考えられますので、治療継続も含め主治医と相談して下さい。


●口腔がん治療を受けられた方へ

1)治療が終了し、外来で通院をしながら定期的な検査を行なっています。通院と定期的な検査を続ける必要がありますか?

口腔がん治療後の再発・転移率は、24~48%と報告され、そのうち75%以上は2年以内に認められていることが示されており、特に治療後2年以内は厳重な経過観察が必要です。そのため通院間隔としては、治療後1年以内は最低月1回(できれば月2回)、1~2年では月1回、2~3年では2か月に1回、3~4年では3か月に1回、4~5年では4か月に1回、5年以降は個々の場合によって6か月に1回程度の診察が勧められ、レントゲン検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などが病状に応じて行われるのが通常です。しかし、新型コロナウイルス蔓延時においては、患者さんへのリスクが最小限に抑えられるのであれば、通院を延期したり、間隔を延ばすことなどが推奨されます。病状が安定した患者さんには電話連絡による院外処方箋の交付も認められています。ただし、再発が疑われるような症状が見られた場合には、次の予約を待たずに主治医へ連絡し、受診してください。
いずれにしても治療後の定期的な検査や診察は、自己判断で中止したり、延期したりしないで、主治医とよくご相談して下さい。


2)当初の入院治療が終了し外来通院中ですが、咳や発熱などの新型コロナウイルス感染症を疑うような症状が出た場合、誰に相談すれば良いのでしょうか?

現在通院治療中であれば、口腔がん治療の主治医に電話でお聞きいただき、然るべき指示を受けてください。また、治療中でないのであれば、かかりつけ医や身近な医療機関または各都道府県の新型コロナ・発熱患者受診相談窓口に電話でまず相談し、適切な指示を受けてください。


3)一般に免疫力を上げて健康状態を維持するためにはどのようなことに心がければ良いのでしょうか?

まずは主治医の注意をよく聞いてください。その上で禁煙、野菜や果物などを含んだバランスのとれた食事の摂取、適度な運動、十分な睡眠など健康的な生活スタイルを心がけてください。特に喫煙は口腔がんの大きな原因となっていますし、肺にダメージを与えることにもなり、新型コロナウイルス感染症状を重症化する可能性があります。また、高血圧や心血管疾患、慢性腎疾患、肥満、糖尿病は重症化の高いリスクになりますので十分にコントロールしておくことが望まれます。


●これから口腔がん治療を受ける方へ

1)これから入院して治療が開始されるのですが、どのような検査が必要ですか?また、治療を開始しても大丈夫でしょうか?

口腔がんを診断し治療を受ける際には、一般的な視診、触診、血液検査のほかレントゲン検査、病理組織検査または細胞学的検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査が必要で、総合的に判断します。これは口腔がんの確定診断や進行度、遠隔転移の有無などを調べるものです。それに加え新型コロナウイルス感染に関する検査として、PCR検査や胸部CT検査についても必要となる場合があります。
治療の開始については、がんの種類と治療法、全身状態により、治療を延期できる場合とできない場合があります。治療が6週間以上遅れると、より悪い結果となることが予想される場合や切迫した気道障害を伴うがん、高悪性度または進行唾液腺がん、再発がんの救済手術などは感染予防に最新の注意を払い、早期の治療開始が勧められます。
新型コロナウイルス感染の可能性を回避するために、治療の延期を考える場合には、多くの考慮すべき点が必要なため、治療を延期することのリスクと感染リスクを低下させることの潜在的利点などについて、主治医とよく相談してください。


2)治療法について教えてください。また、新型コロナウイルスの蔓延によって治療法が変わることはありますか?

治療法は、がんの部位やどのような組織型なのかによって異なりますが、外科的治療による完全切除が基本です。特に口腔がんは放射線治療に対する効果が一般的に低く、手術が根本的治療の原則です。早期がんについては、手術範囲も限られており、切除した後の再建手術も不要で、負担も少なく、手術後の機能障害も抑えられます。進行がんに対しては、通常切除とともに頸部のリンパ節の郭清手術が行われますが、手術だけでは十分ではない場合もあり、手術後に薬物療法や放射線療法の併用による治療が行われることがあります。また、進行がんにおいては、口腔の機能と整容面の回復を考慮した各種再建術が通常行われます。特定の治療を決定する前に、主治医にくわしく聞くことが必要です。また、専門医によるセカンドオピニオンも可能であれば受けてください。手術はがんを取り除く最も速い方法ですが、メリットとデメリットがあることをよく理解し、治療計画を決定する前にすべての治療オプションについて質問することをお勧めします。
以上は標準的な治療の基本ですが、新型コロナウイルス蔓延時においては、治療法を変更せざるを得ない場合があります。例えば、手術をしない非外科的な治療法(薬物療法や放射線療法)が手術+放射線療法と同等と思われる場合は、非外科的な治療が推奨される場合があります。代替となりうる治療法の選択肢についても主治医と十分に検討したうえで、手術適応を決める必要があります。


関連情報

1) https://www.cancer.net/

2) AO CMF International Task Force Recommendations on Best Practices for Maxillofacial Procedures during COVID-19 Pandemic

3) Int J Oral Sci 2020;12:8 Published online 2020 Feb 24. doi: 10.1038/s41368-020-0074-x

4) J Maxillofac Oral Surg. 2020 Apr 11 : 1–3. Maxillofacial surgery and COVID-19, The Pandemic!!

5)日本外科学会HP
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html

6)口腔癌診療ガイドライン2019年版

7)日本口腔外科学会HP
https://www.jsoms.or.jp/

8)日本耳鼻咽喉科学会HP
http://www.jibika.or.jp/

9)厚生労働省Q&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00004.html

10)厚労省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2.1版」
https://www.mhlw.go.jp/content/000641267.pdf

11)国立感染症研究所「新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連情報ページ」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html

12)日本歯科医学会 HP
https://www.jads.jp/

Ⅸ.泌尿器がん

新型コロナウイルス感染症が広がっている時期のがんの治療については、患者さんお一人おひとり個別に判断されるべきです。がんの進行の度合いや代わりとなる治療があるかないか、それぞれの施設の方針、患者さんやご家族の状況などを主治医の先生とよく相談して決めてください。
新型コロナウイルス感染症は、手術室、ICUの機能低下や、人工呼吸器不足、医療チームのマンパワー不足をもたらすことが考えられます。したがって、症例ごとに、状態、進行度、併存症などを十分考慮し、適切な対応が望まれます。


●前立腺がん

1)低リスクの前立腺がんと診断されました。どのような治療が適切でしょうか?

低リスクの前立腺がんは、元来、悪化する危険性が低いがんと考えられています。監視療法といって、無治療で経過観察し治療が必要と判断した際に手術や放射線治療などを行う方法の成績でも、すぐに治療などを行う場合と比べて大きな生存率の違いはありません。したがって、低リスクの前立腺がんに対しては、監視療法が適切な選択肢と考えられます。手術や放射線治療などを受けられる場合でも、治療までの待機期間が長くなっても心配はあまりないと考えられます。


2)中間リスク/高リスクの前立腺がんと診断されました。どのような治療が適切でしょうか?

中間リスクや高リスクの前立腺がんに対しては、基本的に手術や放射線治療などの治療が勧められます。ただし、すぐにこれらの治療が受けられない場合でも、3か月から6か月程度の治療の延期は大きな悪影響はないと思われます。ただし、それ以上に治療までの待機期間が長くなる場合には、ホルモン療法を行う方が良いかもしれません。ただし、ホルモン療法に伴う副作用もありますので、主治医とよく相談して下さい。


●腎臓がん

1)サイズの小さな腎がん(腫瘍径:4cm以下)の外科治療は、新型コロナウイルス感染症の蔓延時にどうしますか?

このサイズの腎がんはただちには命にはかかわらないので、手術の延期を考慮すべきと思われます。


2)比較的サイズの大きな腎がん(腫瘍径:4cm~10cm)の外科治療は、新型コロナウイルス感染症の蔓延時にどうしますか?

月単位で延期は可能です。できれば6か月以内の手術を勧めます。


3)腎周囲に浸潤傾向があったり、静脈内に腫瘍塞栓を伴っていたり等で、進行していると主治医の先生に言われました。そのような腎がんに対する外科治療は、新型コロナウイルス感染症の蔓延時にどうしますか?

適切な感染予防策を取れる施設で手術を受けてください。


4)腫瘍減量を目的とする腎摘除術は新型コロナ感染症の蔓延時にどうしますか?

手術の延期を考慮すべきと思われます。ただし、その間の適切な治療について、主治医の先生と相談されてください。


●膀胱がん

1)膀胱鏡検査にて膀胱に腫瘍がみつかりましたが、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を延期してもよいでしょうか?

肉眼でみてわかる血尿があった場合や再発・進展のリスクが高い膀胱がんの再発などでは、6週以内の手術が望ましいと思われます。一方、それ以外であれば3~6か月程度の延期は可能と思われます。


2)再発・進展リスクが低い筋層非浸潤性膀胱がんの術後経過観察で、膀胱鏡検査を延期することは可能でしょうか?また、小さな再発腫瘍に対する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)は延期してもよいでしょうか?

再発・進展リスクが低い筋層非浸潤性膀胱がんの場合、膀胱鏡検査などの定期的検査を延期することは可能です。また、1cm以下の単発の再発であれば、手術を6か月以内程度延期することも可能と思われます。ただし、肉眼でわかる血尿などの症状が出現した場合には再評価が必要です。

3)再発・進展リスクが高い筋層非浸潤性膀胱がんに対して再切除(2nd TUR)が必要ですか?

再発・進展リスクが高い筋層非浸潤性膀胱がんの場合、2nd TUR(再切除)を行うことが推奨されています。中でも、多発するT1 high gradeや初回TURBTで筋層が採取されていない場合は2nd TUR(再切除)の中止・延期は推奨されません。一方、新型コロナウイルス感染症の蔓延の状況次第では、筋層が採取されており肉眼的に完全に切除された場合、2nd TUR(再切除)を行わずBCG膀胱内注入療法を導入することは選択肢となりえます。


4)高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対してBCG膀胱内注入療法の中止・延期は可能ですか?

高リスク筋層非浸潤性膀胱がんの場合、その一部は筋層浸潤がんへの進展し、さらにその一部はがん死に至ることが知られています。BCG膀胱内注入療法は進展を抑える効果が知られており、BCG注入療法の中止は推奨されません。BCG膀胱内注入療法においては、導入療法6回注入と治療開始後3か月に行う初回維持療法3回注入(6+3)が重要であり、新型コロナウイルス感染症蔓延の状況次第ではその後の維持注入を中止することは選択肢となりえます。


5)筋層浸潤性膀胱がんの診断にて膀胱全摘除術を予定されていますが、手術延期は可能ですか?

筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱全摘除術においては、術前の抗がん剤治療を行うことで治療成績が良くなることが知られています。抗がん剤治療による副作用として感染症のリスク上昇がありますが、リスクが利益を上回ると予想される場合以外は、基本的に術前の抗がん剤治療を行うことが推奨されます。一方、術前化学療法を行わない場合、筋層浸潤がんの診断から膀胱全摘除術までの期間が3か月以内であれば延期可能と思われます。

Ⅹ.婦人科がん

*婦人科がんに関するQ&Aは日本婦人科腫瘍学会により作成されています。
新型コロナウイルス感染蔓延時における婦人科がん治療の考え方は以下の通りです:

  1. 1)流行の程度や地域・施設の条件により選択しうる治療法は異なります。
  2. 2)病態を重症(生命にかかわる、緊急性がある)、中等症(大幅な遅延は生命予後に関わる)、軽症(一定期間の治療延期や別の治療選択が予後を大きく変えない)に分類して治療の延期や治療法の変更が考慮されます。
  3. 3)同様の効果が期待できる治療であれば、通院や入院が最小限となる治療法を選ぶことが考慮されます。
  4. 4)経過観察や投薬のみの場合は電話診療や遠隔診療を活用することも考慮されます。

※ 以下に記すことは、全国的に新型コロナウイルス感染蔓延状況となった場合の対応となります。地域の感染状況や、各医療機関の院内の医療体制は、それぞれの病院で異なります。他院へ転院して標準的な治療を受けることも考えられますので、主治医と相談しながら治療を受けて頂くことをお勧めします。


●子宮頸がん

1)頸部細胞診の異常があった場合、直ちに受診すべきでしょうか?

通常は直ちに精密検査を受けるべきですが、細胞診の異常の程度によって、一定期間精密検査を延期できることがあります。ASC-US(意義不明な異常)やLSIL(軽度異形成)の場合は半年程度、ASC-H(中等度異形成以上が否定できない)やHSIL(中等度異形成以上)、AGC(腺系の異常)やAIS(上皮内腺癌)の場合は3か月程度までには精密検査をうけるべきです。浸潤がんが疑われる場合は早期の受診と精密検査が必要です。

2)初期の浸潤がんと言われましたがすぐに治療をうけるべきでしょうか?

前がん病変である子宮頸部上皮内病変(異形成、CINとも言います)では、一定期間(最大3か月)治療を延期して、厳重に経過観察とすることも可能です。CINより強い病変の場合は原則として早期治療が必要となります。ただし、子宮頸部円錐切除術等で病変が完全に切除された初期子宮頸がん(IA1期)の場合、手術の緊急性は低くなります。IA1-IA2期では治療は2か月までの延期が考慮されますが、妊孕性温存の必要性など個々の患者さんの条件によっても異なります。IB期・II期病変では最大でも1~2か月 までは延期が可能ですが、同時化学放射線療法等の別の治療をうけることも考慮されます。同時化学放射線療法を選択する場合、極力、遅延なくうけるべきですが、通常よりも治療期間を短くした治療計画で治療をうけることも考慮されます。


3)子宮頸がんの術後治療はうけるべきでしょうか?

再発リスクが低リスクの場合は、術後治療(術後補助療法)を延期することも考慮できます。再発リスクが中リスクの場合は、2か月までの術後補助療法を延期することも考慮されます。再発リスクが高リスクの場合は、遅延なく術後補助療法を受けるべきです。


4)子宮頸がんの治療後の定期受診はどうすべきでしょうか?
再発リスクに応じて治療後の定期受診を延期しても良い場合があります。受診の頻度や間隔などは主治医と相談しましょう。


●子宮体がん

1)子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がんといわれましたが黄体ホルモン治療に関してどのように考えるべきでしょうか?

① 子宮内膜異型増殖症もしくは、早期子宮体がん(子宮筋層浸潤のないIA期高分化型類内膜癌)と診断された患者さんのうち、子宮の温存を希望する方に対しては、一般的に高用量メドロキシプロゲステロンを用いた黄体ホルモンによる内服薬治療が考慮されます。新型コロナウイルス感染蔓延下の状況では、腫瘍の進行が緩徐と予想され、多量の出血などの自覚症状が無い場合などは、主治医と適宜、受診間隔の調整を行うことも考慮されます。
② 子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がん等では、黄体ホルモン治療により病変の進行を遅らせられる可能性があります。新型コロナウイルス感染蔓延状況によって手術待機をせざるを得ない場合には、待機している間に黄体ホルモン治療を行うことが考慮されますので、主治医とご相談ください。腫瘍が黄体ホルモン治療に反応することが期待できる場合には、子宮外病変があっても、主治療延期中の黄体ホルモン治療を行うことが考慮できる可能性もあります。

2)早期子宮体がんに対する手術が必要と言われましたが、いつまで待って良いのでしょうか?

多量の出血等の症状がない場合は、最大2か月までの手術延期が考慮されます。


3)子宮体がんの術後治療が必要と言われましたがうけるべきでしょうか?

再発リスクが低リスクの場合は、術後の補助療法を延期することを考慮できます。再発リスクが中リスク以上の場合は、できるだけ遅延なく補助療法をうけるべきですが、通院・入院が少ない治療法が考慮されます。すなわち放射線治療の場合は小線源療法の選択や分割照射回数の減少、化学療法の場合はパクリタキセル+カルボプラチン療法などを選択することも可能です。主治医と相談してみましょう。


4)進行子宮体がんや再発子宮体がんの治療は延期可能でしょうか?

原則的には遅延なく受けるべきです。しかしながらできるだけ通院・入院が少ない治療法を選択することも考慮されます。効果があると考えられる場合は黄体ホルモン治療(内服薬)も考慮されます。まずは主治医と相談しましょう。


5)子宮体がんの治療後の定期受診はどうすべきでしょうか?

再発リスクに応じて治療後の定期受診を延期しても良い場合があります。受診の頻度や間隔などは主治医と相談しましょう。


●卵巣がん

1)付属器(卵巣・卵管)切除等で主病変を摘出した後に初期卵巣がんと診断されましたが、進行期を決定するために追加で手術が必要と言われました。うけるべきでしょうか?
進行期(がんの拡がり具合)を決めるためだけの再手術を最大2か月までを目安に延期することが考慮されます。


2)進行卵巣がんの場合にどのような治療をうけるべきでしょうか?

広範な手術を避け、術前化学療法を選択することも考慮されます。化学療法を先行して行うことで手術のタイミングをずらせる可能性がありますが、これに関しては治療効果を見てもらいながら慎重に医師の判断を仰ぐ必要があります。


3)卵巣がんに対する化学療法(抗がん剤治療)はどう考えたらよいですか?

効果が同等と考えられる薬剤がある場合は、より入院日数が少ない治療、通院回数が少ない治療、そして骨髄抑制等の副作用をきたしにくい治療が選択されます。組織型(がんの顔つき)も重要です。化学療法の効果と来院・治療のリスクに応じて、治療の有無や内容が変わりますので、適宜、主治医と相談しましょう。


4)卵巣がんの治療後の定期受診はどうすべきでしょうか?

再発リスクに応じて治療後の定期受診を延期しても良い場合があります。受診の頻度や間隔などは主治医と相談しましょう。

Ⅺ.乳がん

1)新型コロナウイルス感染症の蔓延に関わらず、早く乳がんの手術を行う場合はありますか?

HER2陽性乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんと診断され、抗がん剤の治療を先に行わない場合、術前の抗がん剤や抗ホルモン剤が効いていない場合、肉腫や葉状腫瘍と呼ばれる稀な腫瘍の場合は可能な限り早く手術を行った方がよいですが、病状と状況によるので主治医とご相談ください。


2)新型コロナウイルス感染症の蔓延に関わらず、予定通り乳がんの手術を行う場合はありますか?

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんや、術前の抗がん剤を施行中あるいは終了したHER2陽性乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんの場合はできるだけ予定通り行った方がよいですが、病状と状況によるので主治医とご相談ください。


3)新型コロナウイルス感染症が蔓延のため、手術を遅らせることができる場合はありますか?

組織診断(針生検など)で非浸潤がんやPaget病の場合、画像診断で良性腫瘍を疑う場合が該当します。また、乳がん手術と同時に乳房再建術を希望されている方で、乳がん手術とは別に時期を改めて乳房再建術を行うことも可能です。さらに、組織拡張器による乳房再建術を受けていてインプラントまたは自家組織による乳房再建術を行う場合も該当します。

<作成>
がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)合同連携委員会
新型コロナウイルス(COVID-19)対策ワーキンググループ(WG)

■WG長
寺嶋 毅(東京歯科大学市川総合病院 呼吸器内科)
■WGメンバー
【日本癌治療学会】
江藤正俊(九州大学大学院医学研究院 泌尿器科学分野)
掛地吉弘(神戸大学大学院医学研究科 食道胃腸外科)
調 憲(群馬大学大学院医学系研究科 総合外科学講座肝胆膵外科分野)
西村恭昌(近畿大学医学部 放射線腫瘍学部門)
藤原俊義(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器・腫瘍外科学)
【日本癌学会】
清野 透(国立がん研究センター 先端医療開発センター)
高山智子(国立がんセンターがん対策情報センター がん情報提供部)
松尾恵太郎(愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野)
松岡雅雄(熊本大学生命科学研究部 血液内科)
三森功士(九州大学病院別府病院 外科)
【日本臨床腫瘍学会】
市原英基(岡山大学病院 呼吸器・アレルギー内科)
小林信明(横浜市立大学附属病院 呼吸器内科)
小山泰司(神戸大学医学部付属病院 腫瘍・血液内科)
姫路大輔(県立宮崎病院 内科)
■日本癌治療学会 協力者
朝蔭孝宏(東京医科歯科大学 頭頸部外科)
井本 滋(杏林大学医学部 乳腺外科学)
桐田忠昭(奈良県立医科大学口腔外科学講座)
河野浩二(福島県立医科大学 消化管外科学講座)
櫻井英幸(筑波大学大学院・医学医療系・放射線腫瘍学)
田邉 稔(東京医科歯科大学大学院 肝胆膵外科学分野)
万代昌紀(京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学分野)
光冨徹哉(近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科学)
吉田和弘(岐阜大学医学部附属病院・病院長、岐阜大学大学院・腫瘍制御学講座、腫瘍外科学分野)

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