理事長挨拶

顔写真:吉野 孝之

一般社団法人日本癌治療学会
理事長 吉野 孝之



がんちから日本を、そして世界を元気にする

日本癌治療学会は、がんの予防、診断及び治療を行う様々な医療従事者や研究者が集い、現在のがん診療・研究の課題を明らかにして、将来についてみんなで語り合う学術団体です。日本癌治療学会は会員の間では親しみを込めて"癌治"(がんち)と呼ばれてきました。私は"がんち"という呼称が一般の方にも親しみ易いのではないかと感じています。

一般の方へ

がんは死因のトップです。その原因は完全に解明されておらず、生活習慣の改善だけで予防できるものではありません。全ての国民ががんを自分事として捉える必要があります。

昔はがんになると手術するしか方法がなく、治癒する(治る)ことは少ない病気でした。今では適切に治療すれば治ることが多くなってきました。手術のみならず放射線や薬剤による治療が発達してきたことがその一因ですが、一方でいろいろな治療を組み合わせるため治療方針が多様化し、医療従事者は幅広い専門的な知識や技術が求められるようになっています。

高齢化に伴いがん患者さんが増え、しかも治るがん患者さんも増えてきたため、がんやがん治療による肉体的、精神的な苦痛をいかに和らげるか、がん患者さんとそのご家族の安心・安全な生活をどのように実現するかなど社会的なことが新たな課題になってきました。

がんに関する学術団体はこれまで消化器、肺、生殖器など臓器毎に分かれて、また治療法は手術、放射線、薬剤とそれぞれの医師の専門分野に分かれて議論されています。日本癌治療学会、がんちは、これらの垣根を越えてがん患者さんに最適な治療を提供すべく多くの領域の医師が集う学会であると自負しています。さらに、がん治療をとりまくがん患者さんのあらゆる苦痛を和らげるために、医師のみならず薬剤師、看護師等の医療従事者、そしてはがん患者さんご自身・ご家族にも参加いただき、みんなで話し合う学会です。

医療従事者や研究者の皆様へ

日本癌治療学会(がんち)は60年を越える歴史と16,000人を超える多数の会員を有する、我が国最大のがん専門の学術団体です。がんに関わる横断的学会として日本癌治療学会の役割は多岐に渡っております。

がんの治療は、薬物療法、放射線療法、手術療法に大別されます。これらを組み合わせた集学的治療が盛んになってきました。最近では、分子標的治療、ゲノム医療、免疫療法、ロボット手術や革新的な診断法などの医療機器の出現で目覚ましい進歩を遂げています。臨床現場は臓器別がん診療が中心でありますが、希少癌・希少フラクションなどの臓器横断的医療の重要性も増してきています。このような治療体系の複雑化・個別化に伴い、「Right Patient, Right Treatment, Right Timing」を日常診療で確実に実践することは容易ではありませんが、我々がん臨床医は常に新しい知識と技術を習得し安全かつ有効にがん患者さんに還元する責務を担っています。日本癌治療学会は、多彩な治療をがん患者さんごとに適切に提供できるがん総合臨床医の育成を一つの目標としています。人材を人財とも書きます。人は財産です。人財の育成に全力をつぎ込み、国際人財にまで飛躍する若者の姿を夢見ています。そして一人ひとりのがん患者さん、そして未来のがん患者さんとそのご家族に「More Than Happy」を届けることを実現します。

新しいがん治療を臨床現場に定着させることは学会としての大きな使命です。がんゲノム医療や免疫療法などの啓発活動には、基礎医学を中心にした日本癌学会、薬物療法を中心とした日本臨床腫瘍学会と連携が今後ますます重要になると考えます。このがん関連3学会の連携により、新しい癌治療をより早く一般診療に定着させることができると考えています。

国際連携・協力も学会の大きな使命の一つです。日本癌治療学会は合同セミナーやシンポジウム、留学生交換などのプログラムを通じてAmerican Society of Clinical Oncology (ASCO) やEuropean Society for Medical Oncology (ESMO) との連携を今後更に強化して行きます。アジアにおいてはAsian Oncology Society (AOS) を支えアジアの学会との連携を強化し、Federation of Asian Clinical Oncology (FACO) を通じて国際臨床研究を促進していきます。

がん患者さんとそれを支える皆様へ、がんちから特別なメッセージがあります。がん患者さんとそのご家族が安心・安全に生活できる社会を実現する活動にも力を入れていきます。令和5年3月発出のがん対策推進基本計画(第4期基本計画)に「関係学会等によるがんの相談支援・情報提供に関する一定の研修を受け、必要に応じ、がん患者やその家族等に対し、拠点病院等のがん相談支援センターを紹介できる地域の人 材等が想定される」とあります。がん医療ネットワークナビゲーターには追い風となりました。幅広い医療従事者にがん医療ネットワークナビゲーターの認定をご取得いただき、がん患者さんを近いところから支えられる未来を実現します。また、がんサバイバーの方の思いを実現するPatients Advocate Leadership(PAL)を通じて医療従事者とがん患者さんの橋渡しをしたいと考えております。さらに一般市民へのがん教育を進めることにより社会全体のがんの撲滅への機運を高めたいと思っております。薬剤師や看護師のキャリアパスを充実するため、認定CRCを大幅に増やし、社会的認知度も向上させたいとも思っています。

現在、世界中で第4次産業革命が起っています。その後の新しい社会が5番目の社会、Society 5.0です。そのため今から異分野という新しい風を呼びこみ、奇跡のコラボレーションが生み出すヘルスケア革命(治す医療から治し支える医療への転換)を実現したいと思っています。

歴代の理事長、役員、会員の多大な努力の上に築かれた各方面よりの期待・信頼を今後も更に発展させる使命を担っております。覚悟をもって、誰よりも泥臭く率先垂範し、医療従事者間・国内外の学会間と風通しの良い関係を強化し、有機的な連携を大切にしていきたいと思っています。究極的なゴールは、がんちから日本を、そして世界を元気にすることです。

皆様のご支援をよろしくお願いいたします。


一般社団法人 日本癌治療学会
理事長 吉野 孝之(よしの たかゆき)

  • がん診療ガイドライン
  • 学術集会抄録アーカイブサイト